介護・リハビリ

「当たり前のことを、当たり前に丁寧に」。訪問介護事業所にじいろが大切にする、目の前の人に向き合う介護

2026.08.16

経営者プロフィール

奥田史憲氏 / 高齢者介護施設やケアマネージャー、障がい者支援の生活介護事業所の施設長としての経験を経て、訪問介護事業所にじいろを立ち上げた。現場で感じてきたのは、介護の質が特定の人に依存してしまうことへの違和感だった。自分が異動すると、それまで保たれていた質が崩れてしまう。そうした属人化をなくし、職員さんが本来やりたい介護を続けられる場所をつくりたい。その想いが、創業の原点にある。

株式会社Keyは、訪問介護事業所にじいろを運営している。開設から2年強。職員さんは13〜14名ほどで、正社員の離職率は0だという。

株式会社Keyは、訪問介護事業所にじいろを運営している。開設から2年強。職員さんは13〜14名ほどで、正社員の離職率は0だという。

同社が大切にしているのは、規模を急いで広げることではない。目の前の利用者さん、職員さん、そしてその場に生まれた「ご縁」に丁寧に向き合うことだ。

今回は、奥田氏に、訪問介護事業所にじいろが大切にしている「丁寧な介護」、職員さんが働き続けられる環境づくり、そして今後目指すチームの姿についてうかがった。

目の前のご縁を大切に、少しでも良い環境をつくる

ーーまず、株式会社Keyとして大切にしている運営方針を教えてください。

奥田史憲:

大きなビジョンを掲げて一気に拡大していくというより、まずは目の前の利用者さんや職員さんを大切にしたいと考えています。

介護の仕事は、人と人との関わりです。そこで出会ったご縁を大切にしながら、少しでも良い環境をつくっていくことが、今の私たちにとって一番大事なことだと思っています。

採用や事業拡大を最優先にするのではなく、今いる利用者さんにとって良い支援ができているか。職員さんが本来やりたい介護をできているか。そこを大切にしています。

ーー創業のきっかけには、どのような経験があったのでしょうか。

奥田史憲:

以前は高齢者介護施設やケアマネージャー、障がい者支援の生活介護事業所の施設長として働いていました。その中で、自分が異動すると、それまで良かった現場の質が維持できなくなることがありました。

もちろん自分だけで現場が成り立っていたわけではありません。ただ、現場のやり方や考え方が一部の人に依存してしまうと、その人がいなくなったときに崩れてしまう。そこに課題を感じていました。

だったら、自分が定着し続けられる場所をつくりたい。職員さんが本来の想いを持って介護に向き合える環境をつくりたい。そう思ったことが、独立のきっかけです。

「丁寧な介護」とは、相手を待つことから始まる

ーー利用者さんやご家族と関わるうえで、最も大切にしている考え方は何ですか。

奥田史憲:

当たり前のことを、当たり前にすることです。

たとえば、相手の動きや反応を待つこと。こちらの都合で急がせたり、無理に動かしたりしないこと。介護の現場では、忙しさの中でつい流れ作業のようになってしまう場面もあります。でも、利用者さん一人ひとりには、その方のペースがあります。

そのペースを尊重することが、丁寧な介護だと思っています。

ーー「丁寧な介護」は、職員さんにも共有されているのでしょうか。

奥田史憲:

はい。ただ、私が一方的に「これが丁寧な介護です」と決めるのではなく、職員さん自身にも考えてもらうようにしています。

丁寧な介護とは何か。利用者さんにとって何が心地よいのか。職員さんそれぞれが現場で感じたことを出し合い、意見を吸い上げながら共有しています。

介護は正解が一つではありません。だからこそ、職員さん一人ひとりが考え、利用者さんの反応を見ながら、より良いやり方を探していくことが大切だと思っています。

ーー具体的に、印象に残っているケアのエピソードはありますか。

奥田史憲:

寝たままの状態でも、少しでも気持ちよく洗髪できるように工夫したことがあります。

ただ手順通りに行うのではなく、その方の状態に合わせて、どうすれば快適に過ごしてもらえるかを考える。職員さんが自分で試し、やり方を共有していく。そうした姿勢が、少しずつ現場に根づいてきていると感じます。

利用者さんやご家族から、職員さんの対応を褒めていただけることがあります。そのときが、一番うれしいですね。自分が褒められるよりも、職員さんの関わりを評価してもらえることに喜びを感じます。

正社員離職率0。職員さんの声を聞き、働き続けられる環境をつくる

ーー開設から2年強で、正社員の離職率が0とうかがいました。定着率を高めるために意識していることはありますか。

奥田史憲:

まずは、職員さんの話をよく聞くことです。

働いている中で感じることや困っていることを、できるだけ吸い上げるようにしています。現場の声を聞かずに、代表や管理者だけで決めてしまうと、働きにくさにつながってしまいます。

給与面についても、収支のバランスを見ながら、年度途中で上げたことがあります。もちろん何でもできるわけではありませんが、職員さんが安心して働き続けられる環境をつくることは、事業を続けるうえでとても大切です。

ーー教育や育成では、どのような取り組みをされていますか。

奥田史憲:

外部の専門家を招いた研修を導入しています。半年ほど取り組んできましたが、外部の方から根拠に基づいて説明してもらうことで、職員さんの納得感が高まる場面があります。

普段の現場だけでは気づきにくい視点もありますし、コミュニケーションの取り方や事業所としてのあり方について話し合う時間にもなっています。

また、AIを使ってアイデアを出したり、業務効率化を考えたりすることもあります。現場の時間をより良く使うために、できることは取り入れていきたいです。

ーー働く人にとって、にじいろはどのような場所でありたいですか。

奥田史憲:

職員さんが「本来やりたい介護」を諦めなくていい場所でありたいです。

環境によって、丁寧に関わりたいと思っていても難しいことがあります。時間に追われたり、人手が足りなかったり、意見が届かなかったりすると、介護の質も働く人の気持ちも削られてしまいます。

だからこそ、話を聞くこと、考えを共有すること、必要な研修や仕組みを整えることを大切にしています。職員さんが納得して働けることが、結果的に利用者さんへの良い支援につながると思っています。

代表がいなくても回る、自律したチームへ

ーー今後、3年後・5年後に会社としてどのような状態を目指していますか。

奥田史憲:

急激に大きくしたいとは考えていません。売上や拠点数を追うよりも、今いる利用者さんと職員さんが充実して過ごせることを優先したいです。

理想は、私がいない場所でも、職員さん同士が支え合いながら、安定して質の高い支援ができるチームになることです。

今は、どうしても私が中心になってフォローしている部分があります。今後は職員さん一人ひとりが知識を深め、自分たちで判断し、支え合える組織にしていきたいです。

ーーそのために、今取り組んでいる課題はありますか。

奥田史憲:

職員の皆様の経験・知識向上と、業務の効率化です。

職員さんが自分たちで判断するためには、知識や経験を積む必要があります。研修や話し合いを通じて、考える土台をつくっていきたいです。

一方で、事務作業も課題です。労務管理や処遇改善加算の計算など、時間がかかる業務があります。そこをシステム化したり、効率化したりすることで、現場に向き合う時間を増やしていきたいと考えています。

ーー採用については、現在どのように考えていますか。

奥田史憲:

今は、離職を前提に補填するような採用ではなく、職員さんの成長と定着を大切にしています。

採用が必要な時期には、SNSなどの発信にも力を入れます。面接前には見学をしてもらい、会社の理念や現場の空気が合うかを双方で確認するようにしています。

良いことだけを伝えて入ってもらうのではなく、実際の雰囲気を見てもらうことが大切です。お互いに合うかどうかを確認したうえで、一緒に働ける人と出会いたいですね。

透明性を高め、職員さん自身が魅力を発信する組織に

ーー情報発信について、今後必要だと感じていることはありますか。

奥田史憲:

代表の考え方や現場の雰囲気、丁寧な介護の実践は、求人票だけでは伝わりにくいと思っています。

Instagramなどでは自分でも発信していますが、今後は職員さん自身が事業所の魅力を発信して、それを聞いた人が集まるような流れができたら理想です。

私だけが発信するのではなく、職員さんが「ここはこういう事業所です」と自然に話せる。そうなれば、組織としても一段強くなると思います。

ーー透明性を大切にされている印象があります。

奥田史憲:

隠し事をしないこと、正直に運営することは大切にしています。

介護の仕事は、利用者さんやご家族、ケアマネージャーさんとの信頼関係で成り立っています。だからこそ、できることとできないことを正直に伝える。問題があれば隠さず向き合う。そうした積み重ねが信頼につながると思っています。

ーー最後に、求職者、利用者さん・ご家族、同業の方へメッセージをお願いします。

奥田史憲:

求職者の方には、ぜひ現場の空気や考え方を見て、自分に合うかを確認してほしいです。私たちは、丁寧な介護をチームで実践したいと考えています。利用者さんに向き合い、職員さん同士で支え合える方と一緒に働けたらうれしいです。

利用者さんやご家族には、当たり前のことを丁寧に行い、誠実に向き合う事業所でありたいと伝えたいです。小さなことでも、その方にとって心地よい支援を考え続けます。

ご縁を大切にしながら、職員さんと利用者さんが安心できる場所をつくっていきたいと思っています。

編集後記

奥田氏の話から一貫して伝わってくるのは、規模や派手な成長よりも、目の前の人との関係を大切にする姿勢だ。利用者さん、職員さん、ケアマネージャー、地域とのご縁。その一つひとつに誠実に向き合うことが、訪問介護事業所にじいろの運営の軸になっている。

「当たり前のことを、当たり前にする」。この言葉はシンプルだが、介護現場で実践し続けるのは簡単ではない。相手の反応を待つ、無理に動かさない、状態に合わせてケアを工夫する。日々の小さな判断の積み重ねが、利用者さんの安心や家族からの信頼につながっている。

また、正社員離職率0という数字の背景には、職員さんの声を聞き、給与や研修、相談体制を含めて環境を整えようとする姿勢がある。職員さんが本来やりたい介護を諦めずに働けること。それは、利用者さんに対する支援の質を守ることでもある。

今後の課題として奥田氏が見据えるのは、代表に依存しない組織づくりだ。職員さん一人ひとりが知識を深め、自分たちで判断し、支え合えるチームへ。訪問介護事業所にじいろの挑戦は、急拡大ではなく、丁寧な介護を続けられる組織の土台を育てる歩みとして進んでいる。

会社概要

正社員離職率0。目の前の利用者・職員さん・ご縁を大切にし、当たり前のことを丁寧に行う訪問介護事業所。公式サイトはCloudflareにより本文取得不可のため関連リンクとして登録。

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