「儲かりそう」だけでは終わらなかった創業の原点

ーーまず、現在の事業内容を教えてください。

中野誠子:私たちは、精神科訪問看護を中心に「訪問看護ステーションくるみ」を運営しています。精神疾患を抱える方への支援を軸にしながら、医療的ケア児や重症心身障がい児者への対応など、必要とされる看護を幅広く届けています。

石森寛隆:会社としては、訪問看護の現場運営だけでなく、採用や集患、Webマーケティング、DX、バックオフィスの仕組み化にもかなり力を入れています。看護の質を守りながら、事業として持続可能にしていくことを大事にしています。

ーー創業のきっかけは何だったのでしょうか。

石森寛隆:中野さん・濱脇さんとは10年来の友人でした。もともとミスチル好きのつながりもあって、年末に食事をしていたときに「訪問看護の事業をやったらどうなるか」と話したのが始まりです。私はその場で5年分のPLを引いてみました。正直に言うと、事業として成立しそうだ、儲かりそうだという感覚もありました。

ただ、それだけではありません。コロナ禍で医療環境が大きく変わる中、訪問看護の現場には課題も多いと感じていました。在宅だから患者さんと深く向き合える、という単純な話ではない。仕組みや働き方を変えないと、本当に良いケアは届かないのではないかと思ったのです。

中野誠子:私は看護師として26年働いてきましたが、経営者としての視点は持っていませんでした。創業してから、石森さんと毎日のように2時間ほど話し合う中で、自分がどれだけ「看護師の常識」に縛られていたかに気づきました。

雇われていた頃は、理念を意識して働くというより、目の前の仕事をこなす感覚が強かったと思います。でも会社をつくるとなると、何のために看護をするのか、どんな組織にしたいのかを言語化し続けなければなりません。そこは大きな学びでした。

ーー創業から現在までで、特に印象に残っている出来事はありますか。

石森寛隆:私は「普通はこうだから」「できないから」という言葉に強い違和感があります。看護業界には、一般企業と比べて働く環境が整っていない部分がまだ多い。給与だけでなく、休日や福利厚生、働き方の選択肢も含めて、看護師が自己犠牲を前提に働く構造を変えたいと思っていました。

大型連休を取れるように工夫すればいい。特別休暇をつくればいい。一般企業では当たり前に考えられていることを、看護師の世界にも持ち込みたかったのです。

会社としても、1期目は売上約4,000万円、2期目には1億円を超えるところまで成長しました。そのタイミングで、約2,000万円を投じてビジョンマップを作りました。創業初期の会社としては大きな投資でしたが、理念や目指す方向を明確にすることは、それだけ重要だと考えていました。

「家に行く仕事」ではなく「人生にお邪魔する仕事」

ーーMake Careのサービスの特徴や強みは、どこにありますか。

石森寛隆:本来、訪問看護に大きな違いがあってはいけないと思っています。公費が関わる事業である以上、どの会社も正しく、一定以上の水準でサービスを提供するべきです。

その上で私たちは、精神科訪問看護を専門的に提供しながら、公認心理師が在籍していること、医療的ケア児や重症心身障がい児者への対応なども含め、幅広い医療ニーズに応えられる体制を強みにしています。助産師や手術室経験のある看護師など、多様なバックグラウンドを持つスタッフもいます。

精神科に特化した訪問看護は、ときに業界内で誤解されることもあります。精神科だけを見て、身体疾患が併発すると他のステーションへ任せるケースもあるからです。私たちは、精神疾患だけでなく、その人の生活や身体の状態も含めて受け止めたいと考えています。

ーー対応エリアや集患の面では、どのような特徴がありますか。

石森寛隆:大阪市全域のほか、枚方、寝屋川、守口、東大阪、尼崎、吹田など、スタッフが直行直帰しながら40分圏内で訪問できる体制を整えています。大阪には訪問看護ステーションが多いので、自分たちより得意な事業所がある領域については、その事業所に担ってもらうべきだとも思っています。

一方で、私たちが得意な精神科訪問看護や医療的な対応については、必要な方にきちんと届くよう、SEOを中心としたWebマーケティングにも力を入れています。採用も集患も、今はWebが重要な接点になっています。

ーー利用者さんと関わる上で、大切にしていることを教えてください。

中野誠子:訪問看護は、ただ「家に行く仕事」ではありません。その方の人生にお邪魔している仕事だと思っています。病気の症状を見るだけではなく、その方がどう生きたいのか、どうなりたいのかを一緒に考えることが大切です。

看護計画も、こちらが一方的につくるものではありません。本人に「どうなりたいですか」と問い、その答えを計画に組み込んでいく。利用者ファーストとは、言いなりになることではなく、本人と一緒に決めた目標を実現するために、最善策を一緒につくり上げることだと考えています。

石森寛隆:「なりたい自分になるために、共に遂行していく」。これが私たちの支援姿勢です。精神科訪問看護だからこそ、症状だけでなく、その人の生活や希望、周囲との関係まで見る必要があります。

看護師が「組織で働く」ことを前向きに選べる会社へ

ーー組織づくりで意識していることはありますか。

石森寛隆:看護師が働く環境を、もっと一般企業に近づけたいと考えています。看護師だから休めない、看護師だから自己犠牲が必要、という前提を変えたい。年間休日は約140日取れるように設計していますし、給与水準だけでなく、1カ月の中でしっかり休めることも大事にしています。

もちろん、訪問看護は人件費が高く、経営としては簡単ではありません。現在の売上規模は約3億円ですが、財務やキャッシュフローは常に向き合うべきテーマです。それでも、看護師への還元や働く環境への投資は削りたくありません。

ーー採用や育成では、どのような点を大切にしていますか。

中野誠子:教育委員会を置き、入職後は座学1週間と同行訪問を組み合わせて、安心して独り立ちできる環境を整えています。即戦力の方でも、独り立ちまでは3〜6カ月ほどかかることがあります。毎月5〜10名ほど利用者さんが増えているため、毎月1名は採用し続けたい状況です。

石森寛隆:採用では、求めることやハードルをかなり正直に伝えています。離職率が高い会社ではありませんが、入社後3カ月以内に合う・合わないが出ることはあります。大事なのは、中野さんや濱脇さんをはじめとする現場の価値観と合うかどうかです。

看護師であっても、組織に入って働く以上、チームとしての姿勢が必要です。「前職ではこうだった」というこだわりだけが強いと難しい。ボトルネックを解消するための提案なら歓迎しますが、ただのこだわりになってしまうと組織は前に進めません。

ーー採用面では、どのような手法を使っているのでしょうか。

石森寛隆:人材紹介は使っていません。リファラル、SNS、Webからの直接応募が中心です。自社サイトが大きな入口になっていて、採用文脈での言葉選びも私がかなり関わっています。Web全体では月間10万PVほどあります。

中野さんの発信や会社のコラム、メディア露出も採用に影響しています。テレビ大阪などのオールドメディアは、やはり信頼度が高いと感じます。YouTubeで後追い的にバズり、100万再生を超えたことで「中野さんと働きたい」という声も増えました。

1拠点の深さを磨き、連携によって訪問看護の未来を広げる

ーー今後の事業展開について教えてください。

石森寛隆:私たちは、ただ多店舗展開を急ぐのではなく、1拠点あたりの質と収益性を高める垂直成長モデルを追求しています。機能強化型を含む大規模ステーション運営のノウハウ、採用・集患・DXの仕組みを磨き込み、それを必要な形で広げていきたいと考えています。

2026年4月には、株式会社Bridgeとの資本提携・業務連携も発表しました。Bridgeは13都道府県19拠点に展開している企業です。私たちが培ってきた採用戦略、Webマーケティング、DX、運営ノウハウを、Bridgeの全国ネットワークとも掛け合わせることで、訪問看護業界全体の持続可能な成長に貢献していきたいです。

中野誠子:現場で感じるのは、「届けたいケアがあるのに、届ける体制が足りない」ということです。看護の質を守りながら、より多くの方に必要な支援を届けられる体制をつくりたい。精神科訪問看護で培った姿勢を、医療的ケア児や他の領域にも広げていきたいと思っています。

ーー最後に、求職者や地域の方へメッセージをお願いします。

中野誠子:訪問看護は、利用者さんの人生に深く関わる仕事です。だからこそ大変さもありますが、その方が「なりたい自分」に近づく過程を一緒に歩める、とても意味のある仕事です。看護師としての経験だけでなく、人の価値観を尊重し、相手の人生に丁寧に向き合える方と一緒に働きたいです。

石森寛隆:私たちは、看護師が無理をして成り立つ会社ではなく、看護師がきちんと休み、学び、組織の中で力を発揮できる会社をつくりたいと思っています。業界の「普通」に違和感を持ち、もっと良くできると考えられる人に来てほしいですね。訪問看護の常識を、一緒に前向きに変えていける仲間を求めています。

編集後記

Make Careの話を聞いて印象的だったのは、看護の理想論だけでなく、経営・採用・財務・マーケティングを含めて「良いケアを続けるための現実」に真正面から向き合っている点だ。石森氏の「普通」への違和感は、看護師の働き方や業界慣習を問い直す推進力になっている。一方で中野氏・濱脇氏の言葉には、利用者の人生に深く関わってきた看護師としての実感がにじむ。

「訪問看護は、家に行く仕事ではなく、人生にお邪魔する仕事」。この言葉は、同社の支援姿勢を端的に表している。利用者の「どうなりたいか」を起点に、看護計画を共につくり、実行していく。そこには、医療サービスの提供者と受け手という関係を超えた、人と人との伴走がある。

創業から短期間で規模を拡大しながらも、Make Careは多店舗化だけを成長と捉えていない。1拠点の深さを磨き、連携によって必要な地域へ価値を届ける。その挑戦は、訪問看護業界における新しい成長モデルの一つとして、今後さらに注目されていくだろう。

経営者プロフィール

石森 寛隆/株式会社Make Care 代表取締役CEO。経営管理、バックオフィス、マーケティング、財務管理などを管掌。Webマーケティングや採用・集患、DXを活用した訪問看護事業の成長基盤づくりを推進している。

中野 誠子/株式会社Make Care 代表取締役社長。看護師として26年の経験を持ち、看護学校での教育経験も有する。訪問看護ステーションくるみの現場を牽引し、精神科訪問看護を中心に利用者の生活に寄り添う支援を実践している。

濱脇 直行/株式会社Make Care 専務取締役COO。オペ看護師としての豊富な経験を活かし、精神科訪問看護の現場へ。地域密着型のケアと現場主義を貫く実践派。訪問看護ステーションくるみの統括責任者として、現場支援と組織運営の両立に挑んでいる。

会社概要

社名:株式会社Make Care

設立:2022年7月5日

資本金:2,000万円

所在地:大阪府大阪市東住吉区田辺5丁目1-37 ラ・ヴィーア米田607号

代表者:代表取締役CEO 石森寛隆/代表取締役社長 中野誠子

事業内容:介護保険法・健康保険法による訪問看護事業、介護予防訪問看護事業、就労移行支援・放課後等デイサービス・グループホームへの医療連携事業、訪問看護ステーションくるみの運営

WEBサイト:https://makecare.co.jp/https://kurumi.makecare.co.jp/